HT 図(p.828) で液体のところの傾きが一番大きい理由は何ですか?

HT 図(p.828) で液体のところの傾きが一番大きい理由は何ですか?

fig19-6
ベンゼンの 0 K から 500 K までの定圧モル熱容量。(マッカーリ・サイモン p.828 より転載)

「ベンゼンの液体の熱容量が気体や固体のときより大きい理由は何ですか?」
と書き換えてもいいですね。

熱容量は実験で直接測定することが可能な物理量であり、物質の状態を明らかにするための重要な値です。HSG などは全て上のような CP の温度依存性から算出可能です。

上の図を見るとベンゼンの場合も液体の CP が固体や液体に比べて一番大きくなっています。
水の場合はもっと極端で、液体状態(水)の熱容量は、固体状態(氷)や気体状態(水蒸気)に比べ 2 倍以上の値となっています。 1) http://www.engineeringtoolbox…….d_576.html , http://www.engineeringtoolbox…….d_162.html , http://www.wolframalpha.com/in……t/?i=water

状態 定圧熱容量, CP / J K−1 g−1
固体(氷, −100 °C) 1.39
固体(氷, 0 °C) 2.05
液体(水, 0 °C) 4.22
液体(水, 25 °C) 4.18
液体(水, 100 °C) 4.22
気体(水蒸気, 100 °C) 1.87

この理由としては、水に2つの構造があって構造1から構造2への転移が温度に対して連続的に起こっているのではないか、または水分子間の水素結合が温度とともに次第に切れていき、結合を切るのにエネルギーが使われているのではないか、等の説明がなされています。 2)参照: カウズマン/アイゼンバーグ 「水の構造と物性」(関集三, 松尾隆祐訳) みすず書房

 

水が 0°C → 100 °C まで加熱されるのに必要なエネルギーを計算してみると、おおよそ

 \displaystyle \int_{0\rm\,^\circ C}^{100\rm\,^\circ C}C_P({\rm liquid})\,{\rm d} T = 420\rm\,J\,g^{-1} 

となります。

一方、100 °C で生じる 液体→気体 の相転移(蒸発)時に吸収する熱は

 \displaystyle \Delta_{\rm vap}H = 2230 \rm\,J\,g^{-1} 

であり、0°C → 100 °C の変化で水が吸収する熱よりずっと大きい(約 5 倍)のです。

蒸発エンタルピーは、水の結合を全部切ってバラバラにするためのエネルギーと考えることができます。

液体の熱容量が(固体、気体状態に比べて)大きいのは、本来、沸点での相転移(蒸発)時に生じる「分子を切り離す」という挙動が、液体状態で温度上昇とともに、徐々に起こっている、と解釈すればよいものと思います。

脚注

1 http://www.engineeringtoolbox…….d_576.html , http://www.engineeringtoolbox…….d_162.html , http://www.wolframalpha.com/in……t/?i=water
2 参照: カウズマン/アイゼンバーグ 「水の構造と物性」(関集三, 松尾隆祐訳) みすず書房