極座標への変換についてもう少し詳しく教えてほしい

極座標への変換についてもう少し詳しく教えてほしい

極座標系の定義

まずは極座標系の定義について

3次元座標を表すには、直角座標である x, y, z を使うのが一般的です。
(通常 右手系 — x 右手親指、 y 右手人差し指、z 右手中指 の方向— に取る)

原点からの距離が重要になる場合 (例えば、原点に原子核がある水素原子の電子分布など)では
x, y, z に代わり rθ(シータ), φ(ファイ, ファイは 𝜙 とも表記される) による 極座標が用いられます。

3次元空間の全ての位置を (x, y, z) の 3つのパラメータで表すことができるのと同じように、
(rθφ) の3つのパラメータで3次元空間の全ての位置を表すことができます。

r が中心からの距離を表しています。θφ は原点からの方向で、地球の表面上の緯度経度を連想して θ が北緯(南緯)、φ が東経(西経)と考えると想像しやすいかもしれません。(角度の取り方は 緯度経度と異なります。 1)θ 軸から、φ xy 平面に投影して 軸から反時計回りに取ります。 上図参照)

直角座標の x, y, はそれぞれ −∞ ~ ∞ の範囲で動きますが、極座標系では制限があります。
また、それぞれに呼び名があります。まとめて表に示します。

記号 名称 定義域
r 動径 0 ≤ r ≤ ∞
θ 極角(天頂角) 0 ≤ θ ≤ π
φ (𝜙) 方位角(偏角) 0 ≤ φ < 2π

極座標⇔直角座標の変換

極座標 → 直角座標 の変換は次の数式で行えます。

 x = r \sin \theta \cos \varphi \\ \\ y = r \sin \theta \sin \varphi \\ \\ z = r \cos \theta \\ 

直角座標 → 極座標 の変換は次の数式で行えます。

 \displaystyle r = \sqrt{x^2+y^2+z^2} \\ \\ \theta = \cos^{-1} \left(\frac{z}{\sqrt{x^2+y^2+z^2}}\right) \\ \\ \\ \varphi = \tan^{-1} \left(\frac{y}{x}\right) \\ 

cos-1, tan-1 は それぞれ 三角関数 cos, tan の 逆関数です。(逆数ではない)
エクセルでは = acos(), = atan() で計算できます。

例外的な話ですが、z 軸上の点は x = 0, y = 0 となってしまい、上式では φ を決めることができません。
これは北極点の経度を決められないのと同じことです。(z 軸上の点 は θ は 0, または π となり、 φ は 0~2π のどの値を取っても同じ位置となる。)

極座標系での積分

3 次元の分布に関する積分を行う際、xyz 座標系では

 {\rm d}x\ {\rm d}y\,{\rm d}z 

と積分すればよいのですが、極座標系では

 r^2 \sin \theta \, {\rm d}r \, {\rm d}\theta \, {\rm d}\varphi 

と、前に  r^2 \sin \theta を付ける必要があります。

これは極座標系での体積素片が下図のような、四角く切ったリンゴの皮みたいな形をしていることによります。

上の図で赤い部分(体積素片)は、皮の厚みが {\rm d}r、横方向の長さが r \sin\theta{\rm d}\varphi、縦方向の長さが r {\rm d}\theta になっています。

{\rm d}x とか {\rm d}\varphi とかは無限小なので、体積素片の体積も 0 になるはずで、その体積を考えろというのには無理があるように思うかもしれません。

次のグラフを見てください。

青線のグラフ(ちなみに  y = x^2+2x )の x = 0 における微分値は 2 です。すなわち

 \displaystyle \frac{{\rm d}y}{{\rm d}x} = 2 

変形すると

 \displaystyle {{\rm d}y} = 2 \ {{\rm d}x} 

となります。これは(x = 0 のとき、) x が 1 増加すると y が 2 増加することを示しています。

すなわち、{\rm d}x とか {\rm d}\varphi とかは無限小を表してはいるのですが、

{\rm d}x\ {\rm d}y\ {\rm d}z は直交座標系で xyz がそれぞれ 1 増えた時の体積増加を、

r^2 \sin \theta \ {\rm d}r\ {\rm d}\theta\ {\rm d}\varphi は極座標系で r と θ と \varphi がそれぞれ 1 増えた時の体積増加を表しています。(θ と \varphi はラジアン単位で表されていることに注意)

極座標系での体積素片(リンゴの皮)の体積はその場所(厳密にいうと rθ)によって変わり、正しい体積とするため上記のように r^2 \sin \theta が必要となるのです。

極座標系での微分

別ページを参照してください。

速度分布式への応用

教科書で扱う 1次元速度分布 → 3次元速度分布の変換では、上記の体積素片のことを考える必要があります。

ここでは速度空間全体の積分式

 \displaystyle \int \int \int F(u_{\rm x}, u_{\rm y}, u_{\rm z}) \, {\rm d}u_{\rm x} \, {\rm d}u_{\rm y} \, {\rm d}u_{\rm z} 

F が 球対称なので(u だけの関数になっている)、まず F の中身を u2 = ux2 + uy2 + uz2 を使って

 \displaystyle \int \int \int F(u) \, {\rm d}u_{\rm x} \, {\rm d}u_{\rm y} \, {\rm d}u_{\rm z} 

と書き直し、積分を

 \displaystyle \int \int \int F(u) u^2 \sin\theta \, {\rm d}u \, {\rm d}\theta \, {\rm d}\varphi 

と極座標系に置き換えます。F(u)は \theta と \varphi に依存しないので

 \displaystyle \int_0^\infty F(u) u^2 \, {\rm d}u \int_0^\pi \sin\theta \, {\rm d}\theta \int_0^{2\pi} \,{\rm d}\varphi 

と分離できます。

 \displaystyle \int_0^\pi \sin\theta \, {\rm d}\theta = 2 
 \displaystyle \int_0^{2\pi} \, {\rm d}\varphi = 2\pi 

なので、最初の積分は

 \displaystyle \int \int \int F(u_{\rm x}, u_{\rm y}, u_{\rm z}) \, {\rm d}u_{\rm x} \, {\rm d}u_{\rm y} \, {\rm d}u_{\rm z} = 4\pi \int_0^\infty F(u)u^2 \, {\rm d}u 

となります。

脚注

1 θ 軸から、φ xy 平面に投影して 軸から反時計回りに取ります。