圧縮発火機の実験では、最後の圧力がわかれば最後の温度がわかるということでいいですか?
概ねその通り。
授業で紹介した式は(二原子分子の場合)
というものでしたが、理想気体の状態方程式 (V1 = nRT1/P1, V2 = nRT2/P2) を使って V を消去すると
という式が得られます(参考 断熱過程の P –V 図)。最初の状態の温度がわかっていれば、最初の状態と最後の状態の体積比、または圧力比から最後の状態の温度が得られます。ただし、この計算ではいくつかの仮定をおいています。
- 可逆過程である。(ピストンの中の気体の圧力と、外の(手で押して生じる)圧力が絶えず等しい)
- 断熱過程である。
1. の仮定のおかげで、途中の P や V の変化過程なしで最初と最後の P や V だけで計算ができています。(可逆仮定だと、体積が収縮する過程での圧力変化が、気体の状態方程式によって定まるから。)
この 2 つの仮定が正しいとすると、ピストンを押し込んだ後、手を放すとピストンは元の位置まで戻るはずです 1)実際には綿が燃えているので、この化学エネルギー分だけ膨張することとなり、元の体積よりもさらに体積が増すはず。また、ピストンの中の圧力より大きな力で押しているので、可逆過程よりも大きな仕事を与えているはず。。
しかし、実際にはピストンは元の位置までは戻りませんでした。加えた仕事のかなりの部分は、周囲に熱として逃げたり、ピストン自体の温度上昇に使われてしまったものと思われます。
すなわち、2 つの仮定のうち、2. の「断熱過程である」というのは厳密には成り立っていなかったわけですね。
「断熱」過程というと、デュワー瓶のように熱を伝えない特別な容器が必要なように思えますが、もう一つ、「時間」も関係しています。今回の実験で使ったアクリルチューブは完全な断熱材ではありませんが、圧縮を 1 秒以内の短い時間で行っているので、外部に逃げる熱は割と少なく、断熱過程とみなしても「良い近似」となっています。(生じた熱が外に逃げるのには時間がかかる)
脚注
↑1 | 実際には綿が燃えているので、この化学エネルギー分だけ膨張することとなり、元の体積よりもさらに体積が増すはず。また、ピストンの中の圧力より大きな力で押しているので、可逆過程よりも大きな仕事を与えているはず。 |