教科 書の「孤立 系の自発過程において常にΔS > 0」の説明(p.870)は強引な気がする

教科書の「孤立系の自発過程において常にΔS > 0」の説明(p.870)は強引な気がする

そうですね。

教科書のここ(p.870下から4行目~20.4おわりまで)は、
式(20.21)

  \displaystyle \Delta S \ge \int \frac{\delta q}{T}   ... (20.21)

が成り立つとすると、孤立系のエントロピーが常に増加することを説明していて、
式(20.21)を導いたり証明したりしているわけではないことに注意してください。

また、式(20.21)は、系のエントロピーの算出に使う

  \displaystyle \Delta S = \int \frac{\delta q_{\rm rev}}{T}   ... (20.3)

と違い、q に可逆過程を示す rev がついていないことにも注意してください。

さて、教科書では1→2→1の循環過程を考えています。
このうち、1→2は系を孤立させ、周囲と熱や仕事のやり取りがない状態で、系の中で何かの不可逆過程を生じさせます。
2→1 は系を周囲と接触させ、可逆過程によって系を元の状態に戻します。

1→2→1の過程について、式(20.21)を素直に適用すると、
左辺は S が状態関数で、元の状態に戻っていることから

  \Delta S = 0  

となります。

右辺は

  \displaystyle \int_1^2 \frac{\delta q_{\rm irr}}{T} + \int_2^1 \frac{\delta q_{\rm rev}}{T}  

となります。(これは式(20.3)とは異なっており、系のエントロピー変化を計算しているわけではないことに注意)

それぞれ式(20.21)に戻してやると

  \displaystyle 0 \ge \int_1^2 \frac{\delta q_{\rm irr}}{T} + \int_2^1 \frac{\delta q_{\rm rev}}{T}  

と不等号が成り立つことになります。

孤立過程なので δqirr は 0 となり、

  \displaystyle 0 \ge \int_2^1 \frac{\delta q_{\rm rev}}{T}  

残った積分は 2→1 のエントロピー変化の式(式(20.3))と一致しているので
(新しいほうから古いほうを引く形になる)

  \displaystyle 0 \ge S_1-S_2  

従って

  \displaystyle S_2 \ge S_1  

となり、ほら(式(20.21)が成り立つなら)孤立系の変化(1→2)ではエントロピーが増加しているでしょう、という結論になります。

授業では周囲のエントロピーの増減を使って「不可逆変化(自発変化)では全体のエントロピーが増える」と説明し、式(20.21)(クラウジウスの不等式) についてはあまりあらわに説明しませんでした。次の章で出てくる G への話の流れからすると、教科書のように周囲のエントロピーを使わずに説明する方が良いのかもしれません。

なお マッカーリサイモンでは 記号 δ (デルタの小文字)は、経路関数の微小量を表すときに使われています 1)経路関数の微分は不完全微分になるので、状態関数の微分(完全微分になる)のときに使われる d (dU や dH など)と区別している。(教科書p.727) 。(教科書 p.815)
私は授業の中では、経路関数については  δ を使わず、単に q とか w と書いていました。

脚注

1 経路関数の微分は不完全微分になるので、状態関数の微分(完全微分になる)のときに使われる d (dU や dH など)と区別している。(教科書p.727)