解答
沸点における物質の気化は可逆過程なので、式(20.3)
... (20.3)
をそのまま使うことができます。
単位付きで代入すると
ΔvapS の符号は正なので、液体→気体の変化はエントロピーが増大しており、これは気体の方が液体よりも乱雑さが大きいことを示しています。
標準データでやってみる
以下余談ですが、教科書の巻末などにある熱力学的データの表には、液体、気体の水のデータが下記のように記載されています。
(ムーア 基礎物理化学(上)より)
物質 |
/ kJ mol−1 |
/ J K−1 mol−1 |
/ kJ mol−1 |
/ J K−1 mol−1 |
H2O(l) | −285.84 | 69.44 | −237.04 | 75.3 |
H2O(g) | −241.83 | 188.72 | −228.59 | 33.6 |
この表の値を用いると、298.15 K における水の気化(液体→気体)の相転移に伴うΔH、ΔS を求めることができます。
ΔH = ΔfH(g) − ΔfH(l) = (−241.83) − (−285.84) kJ mol−1 = 44.01 kJ mol−1
(符号が正なので、吸熱)
ΔS = S(g) − S(l) = (188.72) − (69.44) J K−1 mol−1 = 119.28 J K−1 mol−1
(符号が正なので、エントロピー増大)
さて、この ΔH の値から、ΔS = q / T の式によりエントロピー変化を算出してみると、
となり、上のΔS (=119.28 J K−1 mol−1) と一致しません。
これはどういうことでしょうか。
式(20.3) の q には rev という添え字がついています。これは「可逆過程での熱」を意味しています。テーブルの値は 25 °C での数値であり、この温度での水の気化は可逆過程ではないのです。
上の 2 値の食い違いは次のように理解できます。
100 kPa(標準状態)、25 °C における 1 mol の水の気化では
水のエントロピー変化 ΔS (水) = 119.28 J K−1
周囲のエントロピー変化* ΔS (周囲) = −147.61 J K−1
よって全体のエントロピー変化は ΔS (全体) = (119.28)+(−147.61) = −28.33 J K−1
エントロピーは減少しているので、逆方向の変化(気体→液体)が自発的に生じる。
周囲のエントロピー変化は熱の出入りから計算します。周囲から系(水)へ 44.01 kJ の熱が流れるので、周囲のエントロピー変化は (−44.01 kJ) / (298.15 K) = −147.61 J K−1 (減少)となります。
テーブルに書かれている S から求めた ΔS は「系のエントロピー変化」、
テーブルに書かれている ΔH から ΔH/T として求めた ΔS は「周囲のエントロピー変化」、
と考えるとわかりやすいかもしれませんね。(可逆過程(沸点)なら、両者は一致。)