真空度 10−5 Pa における窒素の平均自由行程

窒素分子の直径 d は 約 370 pm であり、常温(25 °C)、常圧(1.0 × 105 Pa)での平均自由行程 l を計算すると、67.6 nm となる。

さて、物理化学研究室で最も到達真空度の高い真空ポンプ、ターボ分子ポンプ HiPACE80 の最高到達真空度は 1.0 × 10−5 Pa である。
この真空度での窒素分子の平均自由行程を計算せよ。

この問題では大気圧での平均自由行程が示されており、
圧力が 10−10 倍なので、平均自由行程は 1010 倍になる、と計算すればよいのですが、
ここでは 式(27.51) から計算してみましょう。

 \displaystyle l = \frac{RT}{\sqrt{2}N_{\rm A}\pi d^2 P}   ... (27.51)

値を代入すると 1)出題の値の有効数字は 2 桁なので、定数は 3 桁までとりました。答えも正しくは 680 m ですね。

 \displaystyle l = \frac{(8.31 \rm\ J\ K^{-1}\ mol^{-1})(298\rm\ K)}{\sqrt{2}(3.14)(6.02 \times 10^{23}\rm\ mol^{-1})(370\rm\ pm)^2(10^{-5}\rm\ Pa)}\\  \\  =\frac{(8.31 \rm\ N\ m\ K^{-1}\ mol^{-1})(298\rm\ K)}{\sqrt{2}(3.14)(6.02 \times 10^{23}\rm\ mol^{-1})(370\times 10^{-12}\rm\ m)^2(10^{-5}\rm\ N\ m^{-2})}\\   

約分すると単位は m となることを確認します。
接頭語の p(ピコ) が 10−12、また 2 乗が 10−12 にもかかることに注意します。

 \displaystyle l = \frac{(8.31)(298)}{\sqrt{2}(3.14)(6.02 \times 10^{23})(370\times10^{-12})^2(10^{-5})}\rm\ m\\  \\  = \frac{(8.31)(298)}{\sqrt{2}(3.14)(6.02)(370)^2}10^{(-23+24+5)}\rm\ m\\  \\  = 0.000677 \times 10^6\rm\ m\\  


  l = 677 \rm\ m   

桁が間違っている人が多く見られました。単位付きで計算を行い、間違いをしないよう気を付けてください。

ターボ分子ポンプ
ターボ分子ポンプ

分子が 670 m も進まないと他の分子と衝突しないとは、分子の大きさを考えるとすさまじい真空度です。
ターボ分子ポンプ は金属製の「羽」を高速回転させて分子をかき出しますが、このレベルの真空度になると、「羽」になかなか分子が衝突しない、というような状況になってきます。

脚注

1 出題の値の有効数字は 2 桁なので、定数は 3 桁までとりました。答えも正しくは 680 m ですね。