水の振動運動エネルギーと電子レンジは関係あるのか

水の振動運動エネルギーと電子レンジは関係あるのか?

直接は関係しない、というのが回答になります。

授業で説明したように、熱運動は「並進」「回転」「振動」の各運動エネルギーに分配されます。
熱の流入以外でも、他の方法でエネルギーを与えることができれば、物質の運動エネルギーは増加し、結果として温度があがります。

例えば、二酸化炭素分子の場合、
運動の自由度は 並進 3, 回転 2, 振動 4
となります。このうち振動エネルギーの 4つのエネルギーモードは量子化されており、そのエネルギーギャップは光のエネルギーに換算して
667 cm−1, 667 cm−1, 1338 cm−1, 2349 cm−1 になっています。 1)2つの運動モードは全く同じエネルギーギャップ 667 cm−1 を持ちます。これを 縮重 といいます。
エネルギーギャップの小さい 667 cm−1  の振動は室温でも励起されるので、熱容量に大きく寄与しています。(教科書 p.798)
またこの振動は赤外線でも励起されるので 2)振動に伴って双極子モーメントの大きさが変わるモードだけが電磁波で励起されます。このような振動を「赤外活性がある」といいます。、二酸化炭素の「温室効果」の原因になっています。

水の場合、
運動の自由度は 並進 3, 回転 3, 振動 3
となります。振動エネルギーのエネルギーギャップは
1595 cm−1, 3657 cm−1, 3756 cm−1,
で、やはり赤外線のエネルギーに相当します。
一方、電子レンジで使われている電磁波はマイクロ波(振動数 2.45 GHz) で、
上と同じ波数の単位に直すと 0.08 cm−1 となり、電磁波 1 粒のエネルギーとしてはずっと小さいことがわかります。
というわけで、電子レンジは、水の振動エネルギーを直接励起しているわけではなく、
水の集団運動を励起することによって、水を含む食品の加熱を行っているようです。

 

 

脚注

1 2つの運動モードは全く同じエネルギーギャップ 667 cm−1 を持ちます。これを 縮重 といいます。
2 振動に伴って双極子モーメントの大きさが変わるモードだけが電磁波で励起されます。このような振動を「赤外活性がある」といいます。