エントロピー増大則に従うと、人は生きていけない気がする

変な質問なんですが、人間の活動は、エントロピー増大則に従ってないように思うんですけど。

なるほど。人間の活動はエントロピー増大則を無視しているように見えますね。

授業で例として挙げた、

  • 200 K の鉄 1 kg と 400 K の鉄 1 kg を接触させると、高温側から低温側へ熱が移動し、 全体が 300 K になる
  • ピストンに入れた 2 bar のガスは 外圧を 1 bar とすると、膨張して 圧力 1 bar になる
  • ガス A と ガス B を入れた容器の間のバルブを開くと、ガスABは混合する

等々、エントロピー増大則は変化の起こる「方向」を示します。

では誰が、どうやって元に戻すのか。
問題で示された「最初の状態」に戻すこと、例えば ピストンの中のガスを圧縮して 2 bar にすること、はどうやってもできないのではないか。
エントロピー増大則はエントロピーが増える方向への一方通行、もっと言うとエントロピー最大の状態へ向かっての死の行進のようなものなので、違和感を感じるところだとと思います。

質問の件ですが、「エントロピーが最大値に向かい、最大値に達したらそれ以上何も起こらない」のは孤立系 1)孤立系とは外部と物質のやり取りもエネルギーのやり取りもない系のこと。授業では閉鎖系(エネルギーのやり取りあり)を扱っているが、「系内で起きた変化」が周囲に及ぼす影響を周囲のエントロピー変化として計算しているので、全体としては孤立系として考えることができる。仕事 w によって系をいったんエントロピーが小さい状態にし、その後、系とその周辺を孤立系にして最終的に行き着く先を見定めている、と考えればよいでしょう。 での話なので、安心してください。

具体的には、仕事 w が外部から供給されれば上記の問題は解決します。w によって、ピストンのガスを圧縮することは可能です。エントロピー増大則は孤立系に対する法則であり、w によって一時的にエントロピーの低い状態(秩序性の高い状態, たとえば外圧 1 bar 中にある圧力 2 bar に圧縮されたガス)を作り出すことはできるのです。

仕事 w は、エントロピー増大則に逆らうことのできる「質の高い」エネルギーであると言えます。人間が、エントロピー増大則に逆らった行動—例えば、重力に反して坂を登ったり、空気入れでガスを圧縮したり、、、何かの困難に打ち勝ったり(^_^)—ができるのはなぜでしょうか。それは(熱力学的には)食物に含まれる化学エネルギーを通して、外部から質の高いエネルギーを得ているから、と説明できます。

地球上の生物が得ている「質の高いエネルギー」は、(核エネルギーを除き)ほぼすべて太陽の輻射エネルギーが源であると考えてよいでしょう 2)食物は太陽の光による光合成から。石油も過去のプランクトン由来とすると元は太陽の放射エネルギーです。 。太陽系はほぼ孤立系でしょうから、太陽もいずれは燃え尽き、エントロピー最大の状態=エネルギーが太陽系全体に分散し均一になった冷え冷えの状態、に達するでしょう。幸い、太陽系はまだその状態には達しておらず、太陽から一部地球を経由して宇宙へと熱が拡散する、エネルギーの「流れ」が存在します。人間をはじめとする生物は、大きな「流れ」の中にまたたきのように現れた秩序性の高い状態、と言えると思います 3)青い服を着たあの方も原作で同じことを言っていますよ。 。

脚注

1 孤立系とは外部と物質のやり取りもエネルギーのやり取りもない系のこと。授業では閉鎖系(エネルギーのやり取りあり)を扱っているが、「系内で起きた変化」が周囲に及ぼす影響を周囲のエントロピー変化として計算しているので、全体としては孤立系として考えることができる。仕事 w によって系をいったんエントロピーが小さい状態にし、その後、系とその周辺を孤立系にして最終的に行き着く先を見定めている、と考えればよいでしょう。
2 食物は太陽の光による光合成から。石油も過去のプランクトン由来とすると元は太陽の放射エネルギーです。
3 青い服を着たあの方も原作で同じことを言っていますよ。