反応の進行に伴う、G と dG/dξ の関係がよくわからない。
HI(ヨウ化水素)の生成反応を例に挙げます。
初期の物質量は、H2, I2 が各 0.5 mol, HI がなし(0 mol) とします。
また、系の全圧は 1 bar, 温度 298.15 K で一定とします。
反応の進行に伴う 系全体の G (ギブズエネルギー)を示すと次のようになります。
グラフの横軸は反応進行度 ξ (単位 mol) です。
図の左端(ξ = 0 mol) は初期状態で、H2, I2 が 0.5 mol, HI が 0 mol の状態です。
図の右端(ξ = 0.5 mol) では H2, I2 が 0 mol, HI が1 mol となります。
オレンジが系全体の G 、他の線が各成分の G です。
オレンジの線は ξ = 0.464 mol で、最小値となり、ここが平衡位置になります。
グラフ左端 | 平衡位置 | グラフ右端 | |
反応進行度 ξ / mol | 0 | 0.464 | 0.5 |
水素の物質量 nH2 / mol | 0.5 | 0.036 | 0 |
ヨウ素の物質量 nI2 / mol | 0.5 | 0.036 | 0 |
ヨウ化水素の物質量 nHI /mol | 0 | 0.928 | 1 |
このような図を描くためには、まず各成分の (1 mol あたりの G)
を求める必要があります。
は圧力(分圧)によって変化しますが、次の式で表すことができます。
...(22.57)
G° は 標準圧力 P° (= 1 bar) におけるギブスエネルギー G です。
G° の絶対値はわかりませんが、反応物と生成物の G の差がわかればよいので、各物質のモル標準生成ギブスエネルギー ΔfG°を使うこととします。
化学式 | ΔfG° / kJ mol−1 |
H2(g) | 0 |
I2(g) | 19.33 |
HI(g) | 1.56 |
全圧は 1 bar で一定ですが、各成分の分圧は反応進行度 ξ によって変わります。
この例では物質量の合計は 1 mol で一定なので、分圧は次のように ξ を使って表すことができます 。
化学式 | 物質量 / mol | 分圧 / bar |
H2(g) | 0.5 − ξ | (0.5 − ξ )/(1 mol) |
I2(g) | 0.5 − ξ | (0.5 − ξ )/(1 mol) |
HI(g) | 2 ξ | 2 ξ /(1 mol) |
合計 | 1 | 1 |
HIを例とすると、HIの分圧は 2 ξ bar です。 1)厳密には、ξ の単位は mol なので、 1 molで割って無次元化して bar をつける
よって、各反応進行度 ξ におけるHI 1 mol あたりのギブスエネルギー は
となります。H2 と I2 についても式を求めて、図示すると次の図2となります。
となります。 は分圧が上がるほど大きくなります。
従って、反応物は左側が大きく、生成物は右側が大きくなっています。
HI(緑色)についてみると、右端で分圧は 1 bar になるので、は 1.56 kJ となり、左に行くほど小さくなります。
これは各物質 1 mol あたりの値なので、これに物質量をかけると、実際の G (図1)が得られます。
例えば HI の量は 2ξ なので、
図2 では、左端 (ξ = 0 mol) における HI の は −∞ ですが、これに 物質量(0 mol) をかけるので、G のグラフ(図1)の左端の値は 0 kJ になっています。 2)∞ × 0 はいつでも 0 になるわけではありません。関数の発散の速度によって変わります。この例では、ln x が −∞ に発散する速度よりも、 物質量 x が 0 に収束する速度のほうが大きく、0 となっています。この辺の話は、1 年次の授業、「化学数学」で扱いました。
授業では導出は省きグラフだけを示しましたが、上記のような段取りで反応に伴う G の総量を計算することができます。 ΔfG° の数値を入れて G の総量が最小になる ξ を求めると、先に挙げたように ξ = 0.464 mol と平衡位置が求まります。
圧平衡定数を算出するためには G が最小になる条件のみが求まればよいので、圧平衡定数の導出(Chap 26-1)では、各成分の G の総量ではなく、最初から 図1 の傾きdG/dξ を求めています。
dG/dξ = 0 となるのが極小点です。
反応に伴う G の変化 のページも参照してください。