5-9 調和振動子近似(*)

解答

力の定数 k を用いたフックの法則によるポテンシャルエネルギーの式

\displaystyle V(x) = \frac{1}{2}kx^2

との比較から

k =2D\beta^2

従って 1)問題文中の 分子−1 は 「分子 1 個当たり」を意味しているが、SI単位系では 個や回 は単位なし(無次元)とすることになっているので、計算式では省いた。単位は J m−2 = (kg m2 s−2) m−2 = (kg m s−2) m−1 = N m−1。J m−2 や kg s−2 でもも間違いではないが、力の定数は 「ばねを 単位長さ(1 m)分だけ引っ張った時に働く力」なので、適切な単位として (N m−1) を選ぶと良い。

k =2D\beta^2 = \rm 2(7.31 \times 10^{-19}~J)(1.81 \times 10^{-10}~m^{-1})^2\\ \\ = 479~N~m^{-1}

モースポテンシャル(D(1-eβx)2) → 赤、と調和振動子ポテンシャル((1/2)kx2)→青 としてを重ねて図示すると

HCl の原子間ポテンシャル 赤: モースポテンシャル 青:調和振動子近似

となる。調和振動子近似(青)は左右対称形で、 負側(距離の近い方)でも、正側(距離の遠い方)でもモースポテンシャル(青)に比べ左側にずれているものの、x = 0 近傍では両者はほぼ一致しており、良い近似となっている。

なお教科書では、マクローリン展開の最初の項だけしか示されていないが、もう少し展開すると

V(x) = D \beta^2 x^2 - D\beta^3 x^3 +\frac{7}{12}D\beta^4 x^4 -\frac{1}{4}D\beta^5 x^5 ...

となる。第 2 項まで → 緑 、第 3 項まで → オレンジ 、第 4 項まで → 紫 、として順に示すと、項を加えるたびにモースポテンシャル(赤)と「一致している範囲」が広がっていくことがわかる。

モースポテンシャルのマクローリン展開

化学結合の振動のポテンシャルを 調和振動子で近似することは、マクローリン展開の 1 項目だけを採用し、2 項目以降を 0 としたことに対応している。調和振動子ポテンシャルは x = 0 近傍では非常に良い近似となっているし、エルミート多項式が使えるなどのメリットがある。適切な「近似」は毛嫌いせずに、積極的に利用すると良いと思われます。(まず 1 項目だけを考えて、のちに(必要があれば) 2 項目、3 項目… を加えていけばよい。)

脚注

1 問題文中の 分子−1 は 「分子 1 個当たり」を意味しているが、SI単位系では 個や回 は単位なし(無次元)とすることになっているので、計算式では省いた。単位は J m−2 = (kg m2 s−2) m−2 = (kg m s−2) m−1 = N m−1。J m−2 や kg s−2 でもも間違いではないが、力の定数は 「ばねを 単位長さ(1 m)分だけ引っ張った時に働く力」なので、適切な単位として (N m−1) を選ぶと良い。